目が覚めるとバスは鹿児島の市街に入っていた。鹿児島中央駅前、天文館でほとんどの人は降り、ガラガラで終点のいづろに到着。どうやらいづろバスセンターは今日限りで鹿児島港へ移転するらしく、待合室やドアにその旨を書いた紙が貼り出されていた。
歩いて近くの山形屋バスセンターへ。ここから指宿行きで指宿へ向かう。市街を抜けてバスは海岸線を進む。途中で乗り降りがあるものの、基本的に客は5人ぐらいだ。雲の向こうから太陽が顔を出した。なんと桜島の向こうに大隈半島まではっきり見えるではないか。鹿児島を訪れたときはいつも天候に恵まれなかったが、今日は快晴になりそうだ・・・。予想通り雲も徐々に少なくなりはじめ、指宿に着くころには綺麗な青空になった。
指宿から開聞駅行きのバスで開聞口へ。このバスはフラワーパークかごしまや長崎鼻など観光スポットを通るため、降りることはできないがこれまで行ったことのない場所の雰囲気を知ることができるのは嬉しい。長崎鼻を過ぎ、バスは開聞岳の麓を走る。フェニックスと開聞岳の組み合わせがいかにも南国で、青空も相まってテンションが上がってきた。開聞口でバスを降り唐船峡まで歩く。まだ朝だがとても暖かい。手袋をつける必要もなく、むしろコートだと若干暑いくらいだ。そこらじゅうに菜の花も咲いており、鹿児島南部はもう冬ではなく春なんだなと実感した。
「フェニックスと開聞岳」

唐船峡は流しそうめんで有名な場所だが、さすがにこの時期ではどの店も閉まっている。のんびり湧水を散策してバス停へ、やってきたバスに乗って池田湖へ向かう。客が自分一人だけだったのでバスの運転手と会話が弾む。自分がこの後知覧に行くことを話すと「自分がこのバスの後その知覧行きを運転するんだよ」と教えてくれた。
「唐船峡」

池田湖で降りるとそこには自分の見たかった風景が広がっていた。青空・湖・満開の菜の花・開聞岳!これぞ最高のロケーション。嬉しくなって小躍りしそうだ。約1時間の散策だったがあっという間に時間は過ぎてしまった。バス停に戻ってバスを待つも、なかなかやってこない。知覧行きとの乗り換え地点である今和泉での乗り換え時間は3分。おいおい、これは昨日と同じパターンか?再び嫌な予感がする。ようやく5分遅れでバスはやってきた。早く着けと思いつつも結局そのままの遅れで今和泉に到着。またか・・・マジ勘弁してくれと半ば泣きそうな気持ちになりながら向かい側のバス停に向かうと、すぐに知覧行きのバスがやってきた。向こうも遅れていたのか、助かった・・・とホッとして乗り込み、先程池田湖まで乗せてもらった運転手に
挨拶する。
「池田湖よかった?」
「いやー本当に綺麗でした。しかしここまでくるバスが遅れてきて焦りましたよ。」
「ああ、さっきこれに乗るって話聞いてたからその場合は待っててあげるつもりだったんだよ。」
自分の心配は全くの杞憂だったわけだ。なんていい運転手なんだ・・・。その後軽く会話しているうちにバスは喜入から内陸部に入り、山を登って知覧の街に入った。特攻観音入口で運転手にお礼を言って下車した。
「菜の花が満開の池田湖」

知覧といえば美しい武家屋敷群だが、悲しい歴史もある。知覧は戦時中特攻隊の基地があったのだ。知覧特攻平和会館はその当時の話や、特攻隊として沖縄へ飛び立ち海へ散っていった少年達の遺品や遺書、そして証言などが展示されている。一体自分より若い歳で「自分の死」を認識した彼らの心境はどんなものだったのだろう。おそらく自分には実際にその立場に置かれてみないと想像もつかないだろう。自分の歴史認識などはまだまだ浅はかなので、戦争がいいとか悪いとか、そういった安易なコメントは控えさせてもらう。しかし一つ確実に言えることは「戦争はないに越したことはない」ということか。なんだか柄にもなく色々と考え込んでしまった。まだ考えは当分まとまりそうにない。
「特攻平和記念会館」

特攻平和会館を見学した後はバスで武家屋敷へ。知覧といえば武家屋敷というほど有名な美しい武家屋敷群が残っている。いくつかの屋敷では庭園を一般開放しているので早速庭園への入場券を買い、いざ行かん。昨年行った萩もなかなか良かったが、こちらも味があってよい。萩よりもこちらのほうが周囲に高い建物がないからか空が広い感じがする。昔そのままっていう感じがたまらない。庭園もそれぞれ違った趣があって面白く、山々と自分の庭園を絡めるような構図が多いような気がした。人もそこまで多くなかったので武家屋敷の独特な雰囲気を満喫することができた。
「知覧の武家屋敷群」

バス停から鹿児島行きのバスに乗る。山を抜けると坂を下って鹿児島の市街地へ戻ってきた。天文館で市営バスに乗り換え水族館前へ、ここから桜島フェリーで念願の桜島へ渡る。桜島航路もSUNQパスで乗ることができる。本当にいいフリーバスだ・・・。せっかくの快晴なので客室には入らずデッキで桜島を見ながら行こう。頂上までハッキリと見ることができたのは初なので感動。約15分でフェリーは桜島港に到着した。
「フェリーから桜島を見る」

ここに来た目的はふるさと観光ホテルでの日帰り入浴なのだが、時間に余裕があるためバスで桜島を一周してみることにした。隣に座ったおばあちゃんと話していると、なんと若い頃池袋の三越で働いていたという。こんなところで東京の話が分かる人がいるとは思わなかった・・・。別れ際にみかんまで貰ってしまった。おばあちゃんありがとう、とても美味しかったですよ。
東白浜で黒神口行きに乗り換え。桜島でも最も道が険しく人口の少ない地域を走るためコミュニティバスタイプの車両であった。数区間で自分以外は降りてしまい、家もまばらな東側を進む。山側はこれでもかというぐらい溶岩ばかりで桜島の厳しさを、対照的に海側は海と大隈半島の綺麗な海岸線が広がっており、自然の豊かさを感じることができる。途中でなんとか埋没鳥居もカメラに収め、黒神口に到着。ここが大隈半島と桜島の付け根にあたる。乗客がいないままバスは東白浜へ折り返していった。
徒歩1分もしない場所に桜島口停留所があり、ここからいよいよ古里温泉へ向かう。しばらくすると桜島港から折り返しのバスがやってきた。反対側のバス停で待っていると運転手が「乗るのー?」と声をかけてきたので「乗りまーす」と返事をすると「寒いだろうから車内で暖まっていいよー」と返してくれた。お言葉に甘えて車内で運転手と談笑する。
「いやー今日一日中煙上げててこの先真っ白だよ。」
フェリーで櫻島の背後に見えた煙は雲じゃなくて噴煙だったのか・・・。
「しかし九州のバスは時間通り来てくれなくてヒヤヒヤしますよ。」
「普通に走ると早く着きすぎるからだよ。それでお客さんから乗れなかったって苦情がくるからね。だからあえて何分か遅れさせて走るんだよ。乗る人もお年寄りばっかりで走れないからねえ。新聞読んでても最近は出生より亡くなる人のほうが圧倒的に多いから嫌なもんさ。一昔前に比べて確実に乗客も減ってるからねえ。」
なるほど、バスが遅れてやってくるのはそういう理由もあったのか。そして桜島や大隈半島もやはり過疎化に悩まされているのか・・・。
話どおり数分遅らせて桜島口を発車し、桜島の南を走る。海まで流れ着いた溶岩が固まり、その上に草木が生えているのはここ独特の景色だ。しばらく走ると前方が景色が霞んでいる。
「ここから先は今朝からずっと灰が降ってて真っ白になってるよ。」
対向車が灰を巻き上げながら走ってくる。東京にいるとまず見られない光景に軽くカルチャーショックを受ける。そして噴煙の中へ入っていくと建物や道路・川が見事なまでに真っ白だ。雪景色にも見えそうだ。しかし煙の範囲はそこまで広くなかったので、煙から抜け出すとまた普通の景色に戻り、まもなく古里温泉に着いた。なんだか不思議なひと時だった。
「固まった溶岩に草木が生える」

ここ古里温泉にあるふるさと観光ホテルは以前なにかで偶然発見し、それ以来絶対行きたいと思っていた場所である。ここの特徴は露天風呂にある。というのも露天風呂に龍神を祀っているのだ。そのため露天風呂の中に鳥居や御神木があるという面白い造りになっているのである。ホテルだが1050円で日帰り入浴も受け付けている。受付で白装束とタオルを貸し出してもらっていざ露天風呂へ。おお、本当に鳥居や御神木がある。混浴なので白装束を着て湯に浸かるとちょうどいい温かさ。外が寒いからか余計に体が温まる感じがする。お湯は海に面しているからか少ししょっぱい。ちょうど夕暮れ時で、暮れ行く空を眺めながらゆっくりと体を温めた。
「ふるさと観光ホテルの龍神露天風呂」

露天風呂を満喫した後は内湯へ。内湯は露天風呂に比べて温度が高め。しかし外で冷えた体を再び温めるのにはちょうどいい。時間もたっぷりあるし、ゆっくり入ってリフレッシュした。そろそろ桜島港行きの最終バスの時間が迫ってきたのでホテルを出てバス停へ。結局桜島港まで乗車したのは自分ひとりであった。フェリーに乗って鹿児島市内へ。まだ夜行バスまで時間があるので夕食を食べながら時間を潰す。今夜はいづろから天神まで再び「桜島号」で戻る。23時過ぎに大分行きの夜行高速バスが発車していった。どうやら「桜島号」がこのバスセンターから発車する最後のバスのようで、関係者が忙しく移転のための準備をしていた。しばらくすると「桜島号」がやってきた。今回は南国交通の車両だ。しかし昨日のいわさきグループの車両に比べるとどうにも座り心地が劣る。ある程度仕様が統一されている鉄道車両と違い、バスは会社間で全く仕様が違うのが厄介なところだ。まあどうせ寝るだけだ。さっさと寝て明日に備えよう。
1月31日の行動
山形屋バスセンター(6:30)→鹿児島交通→指宿駅前(8:15/8:20)→開聞口(9:09)→唐船峡観光→唐船峡(10:25)→池田湖(10:34/11:39)→今和泉(11:54/11:57)→特攻観音入口(12:42/平和記念館見学/13:26)→武家屋敷(13:33/14:23)→天文館(15:40/15:42)→鹿児島市営バス→水族館前(15:47/16:00)→桜島フェリー→桜島港(16:15/16:20)→鹿児島市営バス→東白浜(16:35/16:42)→黒神口(1710/17:35)→大隈交通→古里温泉(17:45/ふるさと観光ホテル日帰り入浴/20:02)→桜島港(20:16/21:00)→桜島フェリー→桜島フェリーターミナル(21:15)→いづろ(23:30)→高速バス「桜島号」→天神(6:05)